第三者提供:社内での情報のやりとりは第三者提供に該当するのか

経産省ガイドラインに、第三者提供とならない事例として、「同一事業者内で他部門へ個人データを提供すること」が挙げられています。例えば、私が名刺を元に作成したエクセルの個人情報データベースに登録されているお客さんの氏名・メールアドレスを同僚に渡しても良いのでしょうか。

第三者提供とは、個人情報を、個人法人を問わず、ある法的な主体から別の法的主体に移動させることです。そのため一つの法的主体の中で移動する分には第三者提供になりません。あなた個人が個人情報取扱事業者に該当していないことを前提とすれば、同僚に個人情報を渡すことが第三者提供となることはありません。もちろんかかる情報の提供が個人情報の利用目的に合致しているかという点と、プライバシーポリシーや各種の機密保持契約の条項に違反していないかは別途検討が必要です。

第三者提供:幼稚園での保育の状況を保護者にストリーミング配信することは可能か

当方幼稚園を経営しております。父母の方々にお見せするために、教室の状況をリアルタイムでストリーミング配信することを計画中です。個人情報保護法上問題が発生するでしょうか?

経済産業省のガイドラインでは個人が特定できる映像情報も個人情報であるとされています。そして未成年者や幼児の情報であっても個人情報となりますので、教室の状況を撮影すれば、幼稚園は自らが主体となって園児の個人情報を収集していることになります。そしてこの情報をストリーミング配信すれば、本人(園児)以外の法的主体に個人情報が提供されることになりますので第三者提供となります。もっとも第三者提供規制が適用されるのは個人データのみです。通常個人を撮影した映像では特定の個人を検索することはできないでしょうから、個人データには該当しません。もっとも、保育の状況は本人のプライバシーを含んでいる可能性が高く、プライバシー情報を提供するためには、同意を得ることが必要となります。このとき園児本人には判断能力が無いため同意の取得は無意味です。そのため法定代理人から同意を取得する必要があります。この点JIS Q15001でも、子供の個人情報の利用については保護者から同意を得ることが要求されています。 なおどの園児も撮影される可能性があり、またどの園児の父兄もこれを閲覧する可能性がある以上、保護者からの同意の取得にあたっては、「自分の子供の映像が他の父兄も閲覧できる状態になる」ことを前提として、対象となっている教室の園児全員の父兄から同意を取得する必要があるでしょう。 なおこれはあくまでも提供・公開に対する同意の取得の問題ですので、利用目的の様に、単に通知するだけでは足りませんので注意が必要です。

第三者提供:情報の収集主体に情報を渡すときに第三者を介してもよいか

ある通信会社の商品の営業代行を行っています。顧客から回収した申込書を、別の商社を介して、通信会社に渡しています。このように情報をいったん商社に渡すことには問題がありますか?

情報を第三者に提供する際に、宅配業者等、情報の中身に全くふれることのない第三者が介在しても、この第三者は、いわゆる使者であり、個人情報保護法上の第三者には該当しないでしょう。しかしご質問の商社はその情報について自己利用目的があるものと思われますので単なる使者と評価するのは困難でしょう。そのため顧客から個人情報を預かる際に第三者提供についての同意を得るか、オプトアウト手続きを利用する必要があります。

第三者提供の同意:同意は自筆でサインしてもらわないといけないのか

個人情報の第三者提供に関する同意を本人から取得する際には、承諾書にサインをしてもらう必要がありますか。それとも口頭でいいですか?

法律上、第三者提供に関する同意については、書面で取得することが要求されているわけではありません。同意する旨を口頭で伝えられた場合でも、この法律上は有効な同意となります。ただし後々紛争となった場合に、口頭で伝えられただけでは、同意したことの証拠が残りませんので、不利な立場になるおそれがあります。そのため業務上可能であれば、書面で取得する方が望ましいでしょう。それが無理な場合でも「口頭で承諾をもらったことの記録」を付けておくべきです。

メールの転送の可否:個人情報を含むメールを転送してもいいのか

電子メールは受取人が簡単に転送できますが、差出人の同意を得ないで転送すると、プライバシーを侵害したり、その他の規制(通信の秘密や個人情報保護法)に違したりすることになるのでしょうか。

受け取った電子メールは、郵送による手紙とは異なり、受取人が簡単に転送できます。しかし、権利関係やその他の法律問題を分析するにあたっては、通常の手紙と同様の注意が必要す。

プライバシーについて
まずプライバシーの問題については、当該電子メールの内容が、1 私生活上の事柄又は私生活上の事柄らしく受け取られる事柄(私事性) 2一般人の感受性を基準として、他人に知られたくないと考えられる事柄(秘匿性) 3いまだ他人に知られていない事柄(非公知性)
(「宴のあと」事件判例による要件)
の条件を満たすのであれば、判例がいうところのプライバシー情報にあたります。 もっともメールを送信している時点でメールの内容を少なくとも受信者には公開していいと判断している訳ですから、秘匿性・非公知性が必ずしも高くなく、また、単にメールを転送したのみでは、メールの内容を世間に公表したわけではありませんので、たたちにプライバシー権侵害となることは少ないでしょう。メールに記載されている事項が、一般人の感受性を基準とすれば、転送を望まない事項であることが明らかな場合や、メールの発信者と受信者の人的関係や従前のやりとりから当該メールの内容を第三者に開示しないことが当事者間での前提・約束となっている場合や転送先がメーリングリストである場合に、プライバシーの侵害になると思われます。 たとえば病気やトラブルの相談を持ちかけられた内容は、通常は受信者以外の第三者に知られたくない内容であることが多いはずです。平たく言えば「普通は転送されたくないだろうな」と思うようなメールであれば転送しないということになるでしょう。
個人情報保護法についてメールに氏名・住所・所属やメールアドレスが記載されている場合、多くの場合は特定の個人を識別できます。そのため多くの場合はメール全体が個人情報となるでしょう。そしてこれを転送する場合には、同法23条の第三者提供の規制に抵触しないかが問題となります。 もっとも同条の規制対象となるのは同法の規定する「個人データ」つまりデータベース化された個人情報のみです。単にメールソフトのメールボックス内に蓄積されている電子メールが個人データと判断される可能性は少ないでしょう。結果、少なくとも同意を得ずにメールを転送したとしても、同法に違反するということはありません。 ただしメールをなんらかの形で検索を容易にするために体系化している場合、たとえば多数の顧客とのやりとりのメールを印刷し、顧客毎に時系列順にファイリングしている場合などは、個人データに該当してしまい、同条の適用を検討しなければいけません。 まず企業内の別の担当者に転送するような場合には、当初のメールがおよそ企業に向けられた個人情報の送信と考えられることが多いことから、このような転送はそもそも第三者に転送したことにはならない場合が多いでしょう。 一方、企業外の第三者に転送する場合には、多くの場合、この規定の形式的な要件には該当するでしょう。個人情報保護法はプライバシー権とは異なり、対象となっている情報が、私事性、秘匿性、非公知性を問いません。そのためとにかく個人情報が入っていれば、その内容を問わないためです。 結果、転送については同意が必要と言うことになります。もっとも同法の同意は書面によることは要求されていません。そのためおよそ企業間のメールのやりとりであれば、送信者が転送について黙示に同意していると認められる場合も多いでしょう。また業務の委託先への転送であれば、第三者提供の規制の例外となっており、同意の取得は不要です。通信の秘密について
通信の秘密については、そもそもこれを遵守する義務を負っているのは国や電気通信事業者に限られます。また対象となる通信は電気通信役務の受け手である第三者間で行われている通信をいいます。そのため国や電気通信事業者であっても、自身の日常の事務のために職員・社員がやりとりしているメールについてはやはり対象となりません。
その他の法令
不正競争防止法では営業秘密の保護が規定されており、たとえば営業秘密が含まれているようなメールを転送してしまうと。同法に違反してしまうことになります。また公務員であれば、メールの転送により各法令・条例で規定されている公務員としての守秘義務を犯してしまうおそれがあり注意が必要です。

子会社等への第三者提供:社員情報を保険会社や代理店に提供してもよいか

自社の社員の氏名などの個人情報を保険会社に提供したり、保険代理店に社内で保険募集を行わせる場合には、社員の同意が必要ですか。

保険会社やその代理店は、事実上の便宜の見返りに、営業対象となる個人のリストを提供を求めてくることがよくあります。しかし保険会社やその代理店は、自社からみれば個人情報保護法第23条の第三者に該当します。また同条の例外規定の適用も原則としてはありません。そのため情報の提供に際しては、社員個人からの同意が必要となります。オプトアウト規定や共同利用規定を利用することができれば同意が不要となりますが、提供先が個人情報を営業目的に利用するような場合には、これらの規定に依拠することはあまり望ましくないでしょう。 一方、会社が許諾するのであれば、代理店に会社内で営業を行わせることは可能です。社員が代理店に保険の申し込みをしたとしても、これはあくまでも社員から代理店や保険会社に直接個人情報が提供されたことになりますので、第三者提供における同意は必要ありません。しかし代理店の営業行為にあたって会社が社員の個人情報を提供する場合には、やはり個人情報を第三者提供していることになりますので、社員から同意を得ることが必要になります。

労働債務不履行:すぐ働ける人という条件で募集したのにすぐには働けない内定者の責任は

「すぐに働ける人」という条件で採用募集を行い、応募してきた方数名の中から1名を採用しました。ところが採用を決定した後になって、「実はすぐには働けない」と言われました。この人に何か損害の賠償を請求することはできますか。

一旦労働契約を締結すれば、雇用者には賃金の支払義務が発生する一方、労働者には労務の提供義務が発生します。労働者が当初の契約の前提となっていた労務を正当な理由無く拒む場合には、労働債務の不履行となり、これにより発生した損害を請求できる可能性があります。たとえば当該労働者が労務を提供しなかったことにより事業上発生した逸失利益や、再度の募集が必要になった場合にはその費用などが損害となります。ただし他の人を雇った場合の賃金については、欠勤した当人に支払わなくても良い以上、差額がない限りは損害となりません。

電話勧誘販売 : 営業電話でアンケートと名乗って電話することは違法か

当社は幼児用教材の販売を行う会社ですが、電話にて見込み客に営業をかけています。電話する際、最初から勧誘目的や会社名を告げると警戒されてしまいますので、アンケートと言って探りを入れているのですが、問題はないでしょうか。

特定商取引法第16条は下記の通り規定しています。(電話勧誘販売における氏名等の明示)第十六条 販売業者又は役務提供事業者は、電話勧誘販売をしようとするときは、その相手方に対し、販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称及びその勧誘を行う者の氏名並びに商品若しくは権利又は役務の種類並びにその電話が売買契約又は役務提供契約の締結について勧誘をするためのものであることを告げなければならない。御社の営業方法は「電話勧誘販売」の定義に該当する可能性が高いですから、氏名や電話した目的等は開示しなければ違法となります。真にアンケート目的であれば別ですが、物品の販売意思を併有している場合には、この条項の適用対象となるでしょう。

平成15年改正破産法:賃貸人の破産

賃貸人が破産したときの取扱に変更はありますか?

旧破産法では賃貸人が破産したとき、破産管財人には賃貸借契約を解除するかの選択権が与えられていました。新破産法では対抗要件を備える賃貸借については破産管財人は解除することができません(56条)。 旧破産法では賃料債権を受動債権とする相殺は、当期及び次期の賃料に限って行うことができるとされていました。新破産法ではこの制限を撤廃し、次々期以降の賃料についても相殺が可能となりました。また今後発生する賃料の相殺に備えて、差し入れている敷金を寄託する請求ができます(70条)。 旧破産法では賃料の前払いを行っていた場合には当期及び次期の分のみ有効としていました。新破産法ではこの制限を撤廃し次々期以降の分も有効となりました。

平成15年改正破産法:労働債権

労働債権(給与債権)の取扱に変更はありますか?

旧破産法では労働債権(給与債権)はすべて優先的破産債権とされていました。新破産法では、破産手続開始前3ヶ月分の給与の請求権は財団債権となりました(149条)。そのため労働者は過去3ヶ月分の給与に限っては、破産手続の進行を待つことなく、随時破産財団より弁済を受けることができます。