謝罪による責任発生の有無:謝罪したことが原因で法律上の賠償責任が発生したり重くなったりするか

お客様と何らかのトラブルが発生したとき、企業側が「申し訳ございません」等のお詫びの言葉を述べたとき、それが根拠となって法的な責任を負ったり、責任が拡大することはありますか 。

日本では企業と顧客(個人法人を問わず)との間でトラブルが発生したときに何はともあれ「申し訳ございません」とお詫びをお伝えするのは社会的な常識と捉えられています。そのためこの様なお詫びの言葉を口にした場合であっても、道義上または社会的儀礼上から述べたのみであって、法的な責任を認めたものではないとされることが通常です。当職が聞くところの訴訟の例でも、このようなお詫びの存在を裁判所は責任の根拠と捉えることは希のようです。

小分け販売 : 元の製品の商標権を侵害するか

大量に買った商品を小分けして売ってもいいですか?(しょうゆを1斗買って、1合ずつ小分けにして売る場合等)

自分が買った物を自分がどのように処分するかは自由です。 しかし商標がからむ場合にはかならずしもそうではありません。例えば某有名メーカーのしょうゆを小分けにして、「これは某○○の商品××のばら売りです」として売ってしまうと商標権の侵害となります。逆に単に「まとめ買いしたしょうゆのばら売りです」と言って売れば侵害となりません。 ちょっと変わった結論ですが、多くの裁判例が一致した結論を出しています。これは、商標権者は、当該商標を付された商品の上流から下流まで、商品の形態が一定であることを期待しており、その期待は法的に保護に値するからとされているからです。

並行輸入 : 有名ブランドを本国で買って日本で売ることは可能ですか

ある外国ブランドの商品について、国内の代理店ではかなり高価なのですが、本国の小売店ではかなり格安で販売されているのを発見しました。そこで本国の小売店で買って日本に輸入し、国内で販売するとビジネスになると考えているのですが、合法でしょうか。

この問題は、真正品の並行輸入という問題として論じられています。 商標法に直接の規定はありませんが、複数の裁判例が存在しており、一定の基準が示されています。 並行輸入が許される条件としては ①輸入する商品が真正な商品であること ②外国の商標権者と内国の商標権者が同一か、両社の間に法律的関係(代理店等)があること ③並行輸入品と内国で商標権者が頒布している商品が同一品であること が挙げられています。 逆に並行輸入が許されない場合としては、 ①国内において包装替えや詰め替えが行われた場合 ②並行輸入品である旨の表示が十分でないなど、消費者の誤認を惹起する恐れがあるとき ③内国の商標権者が外国の商標権者とは無関係に、当該商標についての名声を得ている場合 が挙げられています。 御質問のような事例であれば、商品に何らの手を加えず、並行輸入品であるときちんと表示されているのであれば、合法となる可能性が高いでしょう。

商標移転 : 二重譲渡されるリスクはあるか

商標の譲渡を受けた後に、第三者に二重譲渡される危険はありますか。

民法上、不動産については二重譲渡の可能性が存在しています。不動産の譲渡は意思表示だけで行うことができ、二者以上に対して不動産の譲渡を行った場合には、最初に登記の移転を受けた者が所有権を確定的に取得できるという仕組みになっています。 これに対して、商標の場合は、民法上の不動産について問題となるような二重譲渡は発生しません。商標法上、商標権の譲渡は登録されて始めて効力を生じます。譲渡が二重に登録されることはありませんから、有効に譲渡を受けることができるのは一の当事者のみと言うことになります。 もっとも商標の譲渡契約後、移転登録前に、第三者に別途移転する契約がなされ、第三者への移転登録が先に行われると、その第三者が商標権を取得することになります。この意味では、民法上の不動産の権利関係と類似していると言うこともできるでしょう。

専用使用権設定 :独占的ライセンスの確保方法

 商標のライセンスを受ける際に、他社がライセンスを受けられないようにする手段はありますか。

商標権を有している者から独占的なライセンス権を取得した場合には、商標権者に対し「他の第三者にライセンスするな」という請求を行うことができます。 もっとも商標権者がこれを無視してライセンスを設定してしまったときに、後からライセンスを受けた者に対して、「その商標を使うな」と請求することはできません。できるのは商標権者に対しライセンス契約違反の責任を問えるのみです。 しかしそれでは「独占的ライセンス」の実効性を担保することができません。そこで商標法には専用使用権の設定が認められています。専用使用権は、専用使用権を設定する旨の契約を商標権者と結んだ上で、特許庁に登録することでその効力が発生します。 専用使用権が効力を発生した後は、専用使用権者は商標権者と同等の権利を行使することができます。商標権を侵害する者があれば、自ら差止請求や損害賠償請求を行うことができます。

著作物の名称と商標:著作物の名称が商標登録されている場合に変更しないといけないのか

当社はレコードを含む商品分類にてある商標を登録しています。当社のこの登録商標と同一の名前が付されたレコードを発見したのですが、これを差し止めたり、損害賠償を求めることは可能でしょうか?

著作物のタイトルが商標権を侵害するかどうかについてはいくつかの裁判例があります。これらの裁判例では、結論を導く理論は若干異なっていますが、いずれも、商標権は著作物のタイトルに及ばないとしています。最近の裁判例である東京地方裁判所は平成7年2月22日判決「UNDER THE SUN」事件では、「出所表示機能,自他商品識別機能を有しない態様で使用されていると認められる商標については」「商標権の禁止権の効力を及ぼすのは相当ではない」とし、問題となったCDアルバムについて「編集著作物である本件アルバムに収録されている複数の音楽の集合体を表示するものにすぎず,有体物である本件CDの出所たる製造,発売元を表示するものではなく,自己の業務に係る商品と他人の業務に係る商品とを識別する標識としての機能を果たしていない態様で使用されている」として、商標権侵害を否定しています。 そのため単にアルバムのタイトルとして登録商標と同一の商標が付されているという場合においては、商標権の侵害は認定されないでしょう。この程度を越えて、例えばシリーズ物の名称として使用されていたり、CDのブランド名として使用されたりしている場合には、商標権侵害と認められる可能性があります。

著作権の発生要件:名刺のデザインに著作権は発生するのか

私はデザイナーですが、先日、名刺のデザインを行い、ロゴを制作した上で、名刺全体の文字や図案の配置を行いました。このデザインが第三者によって勝手に流用されそうなとき、やめろといえる法的な権利がありますか?

たとえ名刺のデザインであっても、著作権法上、そこに創作性があれば著作権が発生します。そして著作権が発生していれば、第三者が勝手に流用すると著作権侵害となり、損害賠償や差止、そして刑事罰の対象となります。なおロゴについては、世の中に出回っている既存のデザインと類似していないのであれば、創作性が認められる可能性が高いです。一方、名刺上のロゴや図案の配置については、どうしても既存のデザインと類似したものになりますので、よほど新規性のある、斬新なデザインでないと創作性は認められないでしょう。

技術的保護手段の回避 : DVDのリッピングは合法か

DVDをリッピングソフトを使用してコピーすることは違法ですか?

2012年の著作権法改正前は、アクセスコントロールの回避技術を自己使用するのみで、第三者に提供しない場合は規制範囲外でした。詳しくは後述の記事をご覧ください。しかし2012年の著作権法改正により、アクセスコントロール回避技術を自らのために使用することも禁止されましたので、いわゆるリッピング行為は著作権法違反となります。罰則は制定されていないものの、違法である以上は行うべきではありません。(以下の議論は2012年著作権法改正前のみ妥当するものです)結論として現在の法令を前提としては直ちには違法とは言えないという結論になります。 著作権法は著作権者に複製権という権利を与えており(同法21条)、著作権者の許諾(同法63条)無しに著作物を複製すると著作権を侵害することになります。著作権を侵害すると、民事的には差止(同法113条)や損害賠償請求の対象となり(民法709条)、刑事的には罰則の対象となります(著作権法119条)。 もっとも著作物を個人的な用途に使用するためのみの目的で複製する場合には、私的複製として、著作権者の許諾を得る必要がありません(同法30条)。たとえばレンタルCDショップでCDを借りてきて、自分で聞くためにカセットテープにダビングしたり、ハードディスクにリッピングしても、著作権の侵害とはなりません。一方、他人に譲渡する目的でダビング、リッピングすることは、私的複製に該当しませんので、著作権侵害となります。 CDのコピーに際してはこのように単に私的複製の規定が適用されることにより適法という結論になります。一方、DVDのコピーは事情がもう少し複雑です。 DVDをリッピングしてコピーを作成するという作業は、分析すると、 1 DVDのコンテンツにかけられたCSS(Content Scrambling System)を解除する。2 ソフトによってはマクロビジョンも解除する。 3 CSSが解除されたコンテンツをハードディスクにコピーする。 4 ハードディスクにコピーされたコンテンツをDVD-R等に書き込む。 という行為に分けることができます。 CSSはコンテンツへのアクセスコントロール技術です。アクセスコントロール技術の回避は、不正競争防止法2条1項10号及び11号、同条5項により不正競争行為とされており、差止(同法3条)、損害賠償(同法4条)の対象とされています。もっとも正確には、対象となる行為は、アクセスコントロール技術の回避を可能とする装置又はプログラムの譲渡等のみです。アクセスコントロール技術の回避を可能とする装置またはプログラムの譲渡を受けることや、それらの使用は対象となっていません。そのため、CSSを解除するプログラムをダウンロードしたり、実際に使用してCSSを解除したとしても、不正競争行為にはなりません。一方、国内でCSSを解除するプログラムを譲渡、販売、公衆送信(ネット上でダウンロード可能な状態にすること)すれば、これらの行為が有償であるか無償であるかを問わず、不正競争行為となります。 次にマクロビジョンですが、これはコンテンツに対するコピーコントロール技術です。先の不正競争防止法の各条項はコピーコントロール技術の回避も対象としていますが、規制の内容は同じで、コピーコントロール技術の回避を可能とする装置の譲渡を受けたり、それらを使用することは不正競争行為にはなりません。 コピーコントロール技術は著作権法も保護の対象としています(同法30条1項2号)。もっとも規制の対象となっている行為は「コピーコントロール技術を回避することによって可能となる複製」です。そのためDVDをリッピングしたとしても、リッピング自体は、もともとマクロビジョンを解除しなくても可能な複製行為ですので、「コピーコントロール技術を回避することによって可能となる複製」には該当しません。ただ同条は、「その結果に障害が生じないようになった複製」も禁止しているため、マクロビジョンを解除して行う複製行為は私的複製にはならない事になります。なおマクロビジョンが解除されたコンテンツをコンポジット出力し、VHSのテープなどにダビングすることは、マクロビジョンを解除したことによって可能となる複製行為ですから規制の対象となります。 なおCSSやマクロビジョンの解除はDVDに収録されていたデータをビットデータとして改変していることになりますので、著作権法20条の同一性保持権を侵害しないかが問題にはなります。しかし同一性保持権の趣旨は著作者が創作したコンテンツの内容を保持することです。CSSやマクロビジョンを解除したとしても、対象となっている映像コンテンツに変更は加えられませんので、同一性保持権の侵害にはならないと考えられているようです。これはCDのデータをMP3に変換する際にも妥当します。 CSSないしはマクロビジョンが解除された後のハードディスクまたはDVD-R等へのコピーは私的複製となりますので、著作権者の複製権を侵害することにはなりません。 以上、リッピングツールをダウンロードし、マクロビジョンの解除を行わず、個人があくまでも私的な目的で使用してリッピングを行う限り、法律には違反しないということになります。 著作権法(同一性保持権)第二十条  著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。2  前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する改変については、適用しない。一  第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項又は第三十四条第一項の規定により著作物を利用する場合における用字又は用語の変更その他の改変で、学校教育の目的上やむを得ないと認められるもの二  建築物の増築、改築、修繕又は模様替えによる改変三  特定の電子計算機においては利用し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において利用し得るようにするため、又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に利用し得るようにするために必要な改変四  前三号に掲げるもののほか、著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変 (複製権)第二十一条  著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。 (私的使用のための複製)第三十条  著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。一  公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合 二  技術的保護手段の回避(技術的保護手段に用いられている信号の除去又は改変(記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約による除去又は改変を除く。)を行うことにより、当該技術的保護手段によって防止される行為を可能とし、又は当該技術的保護手段によって抑止される行為の結果に障害を生じないようにすることをいう。第百二十条の二第一号及び第二号において同じ。)により可能となり、又はその結果に障害が生じないようになった複製を、その事実を知りながら行う場合2  私的使用を目的として、デジタル方式の録音又は録画の機能を有する機器(放送の業務のための特別の性能その他の私的使用に通常供されない特別の性能を有するもの及び録音機能付きの電話機その他の本来の機能に附属する機能として録音又は録画の機能を有するものを除く。)であって政令で定めるものにより、当該機器によるデジタル方式の録音又は録画の用に供される記録媒体であって政令で定めるものに録音又は録画を行う者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。 第百十九条  次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
一  著作者人格権、著作権、出版権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害した者(第三十条第一項(第百二条第一項において準用する場合を含む。)に定める私的使用の目的をもって自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者又は第百十三条第三項の規定により著作者人格権、著作権、実演家人格権若しくは著作隣接権(同条第四項の規定により著作隣接権とみなされる権利を含む。第百二十条の二第三号において同じ。)を侵害する行為とみなされる行為を行つた者を除く。)
二  営利を目的として、第三十条第一項第一号に規定する自動複製機器を著作権、出版権又は著作隣接権の侵害となる著作物又は実演等の複製に使用させた者 第百二十条の二  次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一  技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とする装置(当該装置の部品一式であつて容易に組み立てることができるものを含む。)若しくは技術的保護手段の回避を行うことを専らその機能とするプログラムの複製物を公衆に譲渡し、若しくは貸与し、公衆への譲渡若しくは貸与の目的をもって製造し、輸入し、若しくは所持し、若しくは公衆の使用に供し、又は当該プログラムを公衆送信し、若しくは送信可能化した者
二  業として公衆からの求めに応じて技術的保護手段の回避を行った者
三  営利を目的として、第百十三条第三項の規定により著作者人格権、著作権、実演家人格権又は著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行った者
不正競争防止法(定義)第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十  営業上用いられている技術的制限手段(他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために用いているものを除く。)により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為
十一  他人が特定の者以外の者に影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録をさせないために営業上用いている技術的制限手段により制限されている影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする機能のみを有する装置(当該装置を組み込んだ機器を含む。)若しくは当該機能のみを有するプログラム(当該プログラムが他のプログラムと組み合わされたものを含む。)を記録した記録媒体若しくは記憶した機器を当該特定の者以外の者に譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、若しくは輸入し、又は当該機能のみを有するプログラムを電気通信回線を通じて提供する行為5  この法律において「技術的制限手段」とは、電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他の人の知覚によって認識することができない方法をいう。)により影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録を制限する手段であって、視聴等機器(影像若しくは音の視聴若しくはプログラムの実行又は影像、音若しくはプログラムの記録のために用いられる機器をいう。以下同じ。)が特定の反応をする信号を影像、音若しくはプログラムとともに記録媒体に記録し、若しくは送信する方式又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう影像、音若しくはプログラムを変換して記録媒体に記録し、若しくは送信する方式によるものをいう。

技術的保護手段の回避 : コピーガードの除去ソフトは違法か

ビデオのコピーガードやソフトのプロテクトを除去するのは違法ですか?crackやkeygenも違法ですか?

この問題は著作権法と不正競争防止法の2つの法律にまたがる問題です。 コピーガードやいわゆるプロテクトはコピーコントロール技術と呼ばれています。法律上これらの技術は「技術的保護手段」(著作権法)、「技術的制限手段」(不正競争防止法)と呼ばれています。これらの法律上の正確な定義は若干難解ですが、いわゆるコピープロテクトの多くはこれらの定義に当てはまるものと言っていいでしょう。 不正競争防止法によりこれらの技術的保護手段・制限手段を回避するための装置、プログラムを譲渡、譲渡目的で製造、展示、輸出、輸入、公衆送信することは禁止されています。 また著作権法ではコピーコントロール技術を回避して複製を行うことは、私的複製の例外となり、著作権侵害となります。 いわゆる「プロテクト外し」が合法となる余地はかなり少ないでしょう。

引用 :資料作成に際して論文を引用することは可能か

 社員教育のための資料を作成する際に、ある高名な学者の論文の一部を転載したいと考えています。このような使用は著作権法に違反するのでしょうか?

著作物を転載する行為は「複製」に該当することになりますので、著作権者に無断で行えば、著作権を侵害したことになります。もっとも著作権法上の「引用」(32条)に該当する場合には、著作権を侵害したことになりません。 「引用」は、法律上は、「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない」とされています。もっともこれでは基準が明確ではないため、裁判上は、①明瞭区別性があること、②主従関係があることが条件とされています。①明瞭区別性があるといえるためには、どの部分が引用部分であるかがわかるように、引用する側の著作物と、引用される側の著作物が明瞭に区別できる状態にあることが必要です。②主従関係があるといえるためには、引用する側の著作物が全体として主体性を保持し、引用される側の著作物が例証、参考資料等の付随的な性格を有していることが必要です。 さらに引用を行う際には出所を明示する必要があります(著作権法48条)。著作物の題号、著作者名、書物のページ数、掲載雑誌の名称、出版社名等を引用部分に付記して、出所を明らかにさせます。 以上、条件は若干複雑ですが、これらの条件を守って転載する限りにおいては、著作権者の同意を得なくても、転載が可能となります。