支配株主:間接保有する個人は支配株主となるか

商法施行規則第2条1項22号によると、①会社の総株主の議決権の過半数を有する者と②商法の規定により会社の親会社となる株式会社又は有限会社が支配株主となるとあります。すると株式会社及び有限会社以外の者であって間接的に過半数以上の議決権を有する者は支配株主にはならないのでしょうか?

商法施行規則は法的な安定性のため、形式的な解釈が重視されると思われます。そのため間接保有により過半数以上の議決権を有する個人などは支配株主には該当しないでしょう。 もちろん各種の書類において支配株主に準じた取扱をした上での計算を別途示すのは、ディスクロジャーを充実させる上では望ましい取扱であると思われます。

従業員持株会の設立:取締役会・株主総会の承認の要否

従業員持株会の設立の際、株主総会や取締役会の決議は必要ですか?

結論としては不要です。従業員持株会は会社からは独立した組織ですので、会社側の意志決定は不要です。むしろ会社が設立の意志決定をしてしまうと、会社の内部組織のようになってしまい矛盾します。なお、従業員持株会経由での株式取得について会社が奨励金を支出する場合で、これがかなりの多額となる場合には、かかる奨励金支出について取締役会の決議が必要となる可能性はあります。

取締役の降格:専務や常務の降格手続き

専務取締役を平取締役に降格させる場合には、何らかの手続きが必要ですか?

商法第260条2項3号では、「支配人其の他の重要なる使用人の選任及解任」は取締役会の決議事項とされています。そしてこれは強行規定であり、定款や取締役会規則で定めたとしても、代表取締役や常務会に委任することはできないと考えられています。 ご質問の、「専務取締役」も「平取締役」も、商法上は単なる「取締役」にすぎません。そのため単に肩書きが変更されるのみであれば、取締役会の決議事項とはならない可能性があります。もっともこれらの取締役は従業員としての地位を兼務している場合があり、何らかの重要な役職が伴っている場合があります。専務取締役から平取締役に降格となることによって従業員としての役職が変更となるのであれば、まさに重要なる使用人の選任と解任に該当します。そのため取締役会決議を経なければ、降格ができないということになるでしょう。

古物営業と宅建業:中古不動産の取扱いは古物営業に該当するか

居抜きの賃貸物件(店舗)を扱うビジネスを始めようと思っています。これは古物営業でしょうか、それとも宅建業(宅地建物取引業)でしょうか。

不動産は古物営業法上古物として扱われませんので、居抜き物件を取り扱っても通常は古物営業となることはなく、一般的な宅建業として業務を行うことになります。もっとも居抜き店舗を扱う際に、従物を独立して売買する場合には宅建業の他に古物営業の許可の取得が必要となる場合があります。居抜きの店舗であれば、店舗に物理的に付着はしていないが、店舗で使うことが想定されるものが従物となります。移動可能なテーブルや椅子が該当するでしょう。

機密保持契約:契約違反を理由に取引が潰れた場合損害賠償ができるか

当社は食品卸業を営んでいます。継続的な営業の結果、ある大口の客先との契約が取れそうになりました。この経緯を当社のある株主に報告したのですが、この株主が客先に連絡を取ってしまい、結果、客先が不審がって今回の契約が破談になりました。この株主とは機密保持契約を締結しているのですが、今回の損害の賠償の請求をすることができるのでしょうか。

損害賠償の請求をするにあたっては3つの問題を検討しなければいけません。まず機密保持契約を締結しているとのことですが、多くの機密保持契約は契約上機密となる範囲が限定されています。そのため契約を検討し、営業上の報告内容が機密保持義務の対象となっているかをまず調査しなければいけません。 次に今回契約を締結できなかった原因が、他の何らかの要因ではなく、まさにその株主が連絡を取ったことにあることが立証できることが必要です。訴訟上この点を立証するのは必ずしも容易ではありません。 最後にこの契約が取れなかった事による損害を立証できることが必要です。損害の内容はこの契約が取れていた場合の利益という事になりますが、将来のことであり、仮定的要素を含みますので、合理的な判断材料がそろわない限りは、立証したと見なされません。 このように御質問のようなケースでは訴えて賠償請求するのは不可能ではないが困難を伴うという結論になると思われます。

秘密保持契約:独立した契約と基本契約内の義務との違い

当社では秘密保持契約書を締結する場合に、単に秘密保持契約書だけを締結する場合と、取引契約書を別途締結し、この契約に関わる情報を秘密情報として特定した上で秘密保持契約書を作成する場合があります。それぞれの方法についてのメリット・デメリットはなんでしょうか。

契約自由の原則の下、秘密保持契約の対象事項を限定することも可能ですし、包括的な秘密保持契約を締結することも可能です。効力自体には違いがありません。いずれの方式をとるかについては、自社の秘密情報と相手方の秘密情報の重要度、自社からの情報提供量と相手方からの情報提供量を比較し、また、取引に付随しない情報のやりとりがあるかどうかを総合的に検討しなければいけません。情報を渡す側であれば包括的な契約の方が望ましいという事になりますし、情報をもらう側であれば限定的な契約の方が望ましいと言うことになります。 なお包括的な秘密保持契約とする場合でも、対象事項については、「秘密であることを明示したもの」に対象事項を限定したり、例外事項を定めたりすることにより、対象の範囲を大幅に絞ることは可能です。義務が重くなりすぎるようであればこの点工夫すべきでしょう。

覚書の法的効力:覚書という題名は効力に影響があるか

取引上、「覚書」というタイトルで文書を取り交わすことがよくあります。この「覚書」という体裁は、他に取引の基本となる契約書を締結した後でないと効力は発生しないものなのでしょうか。

合意事項を記載した書面について、タイトルを「契約書」とするか、「覚書」とするかによって法的な効力が変わることはありません。また締結にあたっても、「契約書」を作成した後、その修正や条項の追加という意味で「覚書」を作成することもできますし、単に「覚書」のみを作成して、当事者間の合意事項を全て記載するということも可能です。どちらも法的な効力に違いはありません。 もっとも「契約書」と「覚書」を別の書面としている場合で、客観的に別の合意事項と判断できる場合には、それぞれ独立して契約の解除が可能になります。この点はビジネス上メリットになる場合もあればデメリットになる場合もあるでしょう。

元請け名義での営業行為:外注先に自社の名刺を持たせることの可否

顧客との対応を下請に行わせるときに、自社の名刺を持たせ、自社の名義で対応させるのは法的に問題が生じますか?下請が顧客に訴えられることはありますか?

顧客との契約中に再委託についての禁止条項がある場合には、下請にこのような行為を行わせると契約違反となります。逆に許容する旨の条項がある場合には、通常は契約違反にはなりません。どちらとも規定されていない場合には、契約の趣旨からして、その業務について自社が直接取り扱うことを前提としていたか否かによります。 下請が訴えられる可能性が生じるのは、まず自社において契約違反が生じていることが前提です。そして下請が業務を遂行したことによって、顧客に具体的な損害が発生し、下請に故意又は過失がある場合には、損害の賠償を請求するために顧客が下請を訴えることが可能になります。もっとも自社が直接業務を取り扱わなければならない特別の理由が存在していたような場合でなければ、顧客に賠償対象となるような損害が発生することは少ないでしょう。

債権回収代行:徴収代行業務の許認可の要否

当社は日用品の卸売業者です。販売店向けのサービスとして、一般消費者からの料金の徴収代行を行いたいと考えています。何か届け出や資格が必要ですか?

債権の回収代行業務は一般的にファクタリングと呼ばれています。ファクタリングは、その対象となる債権が、一般の売掛債権であり、回収に際して債務者との紛争が全く発生していないものであれば、特に届出や資格は必要ありません。しかしリースが絡んだ債権やその他サービサー法(正式名称・債権管理回収業に関する特別措置法)に規定する特定金銭債権については、サービサーとして認可を受けた法人しか行うことができません。また債権者と債務者との間で何らかの紛争・争訟が発生している債権の回収は、弁護士法第73条により、弁護士でなければこれを行うことができません。また回収リスクが自社負担となる事を覚悟できるのであれば、立替払いとしてスキームを構成することもできます。