機密保持契約書の締結義務:取引先からNDAの追加締結を求められた場合応じる義務があるのか

当社は卸売業者ですが、納入先より個人情報漏洩についての損害賠償条項が記載された覚書と誓約書の提出を要求されています。当社は取引上弱い立場にあるのですが、この要求には従わなければならないのでしょうか?

近時、個人情報漏洩事件の多発を受けて、個人情報保護に関する覚書の締結や誓約書の徴集が盛んに行われています。そして多くには、機密保持条項や損害賠償条項が記載されています。もっとも、誤解が多いのですが、実は、個人情報を預かっていれば、これらの書面を締結していなくても、法律及び先例上、機密保持義務や損害賠償義務を当然に負っています。当たり前といえば当たり前なのですが、人の秘密を勝手に漏洩してはいけませんし、漏洩によって相手に損害を与えればこれを賠償しなければなりません。そのため、機密保持条項や損害賠償条項しか記載されていない書面であれば、もともと法律上負担している義務を紙に書いただけですので、実は締結したとしても、自社の負担が重くなるわけではありません。 一方、監査の受け入れや報告義務など、実質的な負担が重くなる条項については、よく検討して締結すべきです。違約金条項などが入っていると、思ってもみなかった賠償責任が発生してしまうことがあります。なお、機密保持の覚書や誓約書を相手方に提出するという義務は、法律上は特に存在していません。しかし今般、個人情報保護法が制定され、業務委託先の管理責任が明定されました。そしてこれをうけて経済産業省の個人情報保護ガイドラインも委託先に対し一定の監督を行うように要求しています。そのため委託元においてもこれらに対応せざるを得ない以上、委託先においても、覚書の締結などはある程度は受諾せざるを得ないでしょう。もっとも、「個人情報保護対策」という名の下に実質的に不利益な取引条件を押しつけるような行為は許されません。経済産業省ガイドラインにも同様の記載がなされています。あまりにも乱暴なやり方であれば、優越的地位の濫用であるとして、独占禁止法に基づき、公正取引委員会に申告すべきでしょう。

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