電子メールは受取人が簡単に転送できますが、差出人の同意を得ないで転送すると、プライバシーを侵害したり、その他の規制(通信の秘密や個人情報保護法)に違したりすることになるのでしょうか。
受け取った電子メールは、郵送による手紙とは異なり、受取人が簡単に転送できます。しかし、権利関係やその他の法律問題を分析するにあたっては、通常の手紙と同様の注意が必要す。
プライバシーについて
まずプライバシーの問題については、当該電子メールの内容が、1 私生活上の事柄又は私生活上の事柄らしく受け取られる事柄(私事性) 2一般人の感受性を基準として、他人に知られたくないと考えられる事柄(秘匿性) 3いまだ他人に知られていない事柄(非公知性)
(「宴のあと」事件判例による要件)
の条件を満たすのであれば、判例がいうところのプライバシー情報にあたります。 もっともメールを送信している時点でメールの内容を少なくとも受信者には公開していいと判断している訳ですから、秘匿性・非公知性が必ずしも高くなく、また、単にメールを転送したのみでは、メールの内容を世間に公表したわけではありませんので、たたちにプライバシー権侵害となることは少ないでしょう。メールに記載されている事項が、一般人の感受性を基準とすれば、転送を望まない事項であることが明らかな場合や、メールの発信者と受信者の人的関係や従前のやりとりから当該メールの内容を第三者に開示しないことが当事者間での前提・約束となっている場合や転送先がメーリングリストである場合に、プライバシーの侵害になると思われます。 たとえば病気やトラブルの相談を持ちかけられた内容は、通常は受信者以外の第三者に知られたくない内容であることが多いはずです。平たく言えば「普通は転送されたくないだろうな」と思うようなメールであれば転送しないということになるでしょう。
個人情報保護法についてメールに氏名・住所・所属やメールアドレスが記載されている場合、多くの場合は特定の個人を識別できます。そのため多くの場合はメール全体が個人情報となるでしょう。そしてこれを転送する場合には、同法23条の第三者提供の規制に抵触しないかが問題となります。 もっとも同条の規制対象となるのは同法の規定する「個人データ」つまりデータベース化された個人情報のみです。単にメールソフトのメールボックス内に蓄積されている電子メールが個人データと判断される可能性は少ないでしょう。結果、少なくとも同意を得ずにメールを転送したとしても、同法に違反するということはありません。 ただしメールをなんらかの形で検索を容易にするために体系化している場合、たとえば多数の顧客とのやりとりのメールを印刷し、顧客毎に時系列順にファイリングしている場合などは、個人データに該当してしまい、同条の適用を検討しなければいけません。 まず企業内の別の担当者に転送するような場合には、当初のメールがおよそ企業に向けられた個人情報の送信と考えられることが多いことから、このような転送はそもそも第三者に転送したことにはならない場合が多いでしょう。 一方、企業外の第三者に転送する場合には、多くの場合、この規定の形式的な要件には該当するでしょう。個人情報保護法はプライバシー権とは異なり、対象となっている情報が、私事性、秘匿性、非公知性を問いません。そのためとにかく個人情報が入っていれば、その内容を問わないためです。 結果、転送については同意が必要と言うことになります。もっとも同法の同意は書面によることは要求されていません。そのためおよそ企業間のメールのやりとりであれば、送信者が転送について黙示に同意していると認められる場合も多いでしょう。また業務の委託先への転送であれば、第三者提供の規制の例外となっており、同意の取得は不要です。通信の秘密について
通信の秘密については、そもそもこれを遵守する義務を負っているのは国や電気通信事業者に限られます。また対象となる通信は電気通信役務の受け手である第三者間で行われている通信をいいます。そのため国や電気通信事業者であっても、自身の日常の事務のために職員・社員がやりとりしているメールについてはやはり対象となりません。
その他の法令
不正競争防止法では営業秘密の保護が規定されており、たとえば営業秘密が含まれているようなメールを転送してしまうと。同法に違反してしまうことになります。また公務員であれば、メールの転送により各法令・条例で規定されている公務員としての守秘義務を犯してしまうおそれがあり注意が必要です。